今回は、新改善基準での連続運転時間の3つの変更点の2番目
⑵ おおむね連続10分以上の運転中断をカウント
です。
現行の改善基準の「連続10分以上」に「おおむね」が付きました。
原因はデジタコの普及です。
アナタコ(まるいチャート紙を使うアナログ式タコグラフ)では判別できない細かい時間がデジタコで出るようになったためです。
たとえば、9分50秒の運転中断があったとします。
アナタコのチャート紙を見ても、それが10分未満なのか10分以上なのかなんてわかりません。
運送会社側が「10分以上」と言えば、監査する人はそのようにあつかわざるをえないでしょう。
ところがデジタコのばあい、「9分50秒」という数字が秒までそのまま出ちゃいます。
たかが10秒ですが、改善基準に「連続10分以上」と書いてある以上、監査する側は勝手に見逃すわけにいかないでしょう。
そういう意味ではアナタコを使っている方が得をしてしまうわけです。
デジタコにしたせいでかえって損をするのは気の毒じゃないか、ということで今回「おおむね」が付けられたようです。
ただ、この方法、すっきり問題を解決してくれるわけではありません。
だって、改善基準の条文に「おおむね」と付いたからって、デジタコの表示がおおざっぱになるわけじゃありません。
「何分何秒」という細かい数字のままです。
そうすると「おおむね連続10分以上って具体的に何分何秒以上あれば OK なの?」ということになりますよね。
これがここでの問題の焦点だと思います。
そして、新改善基準通達に次の謎の一文があります。
「おおむね連続 10 分以上」とは、運転の中断は原則10 分以上とする趣旨であり、例えば 10 分未満の運転の中断が3回以上連続する等の場合は、「おおむね連続 10 分以上」に該当しないものであること。(第2の4の⑸)
「おおむね連続 10 分以上」についての説明の一環として、10分未満の運転中断が3回以上連続する場合は ✕ 、としているのです。
しかも、「例えば」とか「等の場合は」と、まるでわかりやすい例を挙げてくれているかのような口ぶりです。
何かを説明してもらうときに、例を出してもらうことによってイメージしやすくなり言いたいことが伝わることはよくあります。
でも、ここに書かれた例を読んでも、「おおむね連続 10 分以上」「運転の中断は原則 10 分以上」のイメージは少しも明確になりません。
ではこの例(10分未満の運転中断が3回以上連続する場合は ✕ )を出すことによって、実際に何をしようとしているのか?
ウンウンうなりながら考えて思いついたのは、これは「おおむね連続 10 分以上」を読み替える別の具体的なルールを示そうとしているのではないか、ということ。
「おおむね連続 10 分以上」は時間の長さですが、ここで1回の運転中断の長さの最低ライン(何分何秒以上)を示す代わりに、10分未満の運転中断を連続してカウントできる回数を制限するルール(2回まで)を示すによって、「おおむね連続10分以上」を置き換えようとしたのではないか、ということです。
この場合、元の「おおむね連続10分以上の運転中断」と独立に「10 分未満の運転の中断」の範囲を明確にする必要がありますが、時間の長さの最低ラインを引かず、文字どおり「10分未満の運転の中断」をすべて含むものと考えればよいでしょう。
このように解釈すれば、「おおむね連続10分以上」のあいまいさを取り除くことができますし、「例えば 10 分未満の運転の中断が3回以上連続する等の場合」という唐突な例の意味も一応理解できます。
われながらよく考えた、と満足していたのですが、遅れて公表された「改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A」の「3-10」を読んで、この仮説はちがうことが判明しました。
そこを読むと「おおむね連続10分以上」の1回の運転中断には長さの最低ラインがあるものと考えられていることがわかります。
ただ、残念なことにその最低ラインの値は書かれていません。
5分は ✕ 、9分は ○ 、というところまではわかりますが、わかるのはそこまでです。
5分と9分のあいだのどこかに「おおむね連続10分以上」の長さの最低ラインがある、ということしかわからないのです。
ということは、監査する人それぞれにとっての「おおむね連続10分以上」の語感まかせ、ということです。
デジタコ対応で条文を変更するのだから、「デジタコの場合は何分何秒以上」という明確な数字を示してくれた方がよかったんじゃないでしょうか(何かそうできない事情があるのかもしれませんが)。
そして、「例えば 10 分未満の運転の中断が3回以上連続する等の場合」の謎が、宙ぶらりんのまま残されてしまいました。
結局、「10分未満の運転中断が3回以上連続する場合は ✕ 」とすることによって、「おおむね連続10分以上」の意味が明確になるわけでもありませんし、それを置き換える別の具体的な検証ルールが示されたわけでもありませんでした。
「おおむね連続10分以上の運転中断をカウントする」という元のルールに「10分未満の運転中断が3回以上連続する場合は ✕ 」という別のルールが付け加えられて複雑になっただけ。
現時点ではそのようにしか考えられないのですが、みなさんはどう思われますか?