1日の拘束時間上限は、長距離運送の場合と長距離運送以外の場合に分かれます。
まず今回は長距離運送以外の場合。
長距離運送以外の拘束時間上限は次のとおりです。
原則 13時間
延長 15時間
1ヵ月および1年の拘束時間の場合と違って、延長するのに労使協定は不要です。
求められるのは「1日の拘束時間が14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努める」ことだけ。
この「できるだけ少なく」とは、具体的に
● 14時間を超える回数は1週間に2回以内を目安とする
● 14時間を超える日が連続することは望ましくない
と説明されています。
「目安とする」「望ましくない」など微妙な言葉が使われていますが、努力義務です。
自転車のヘルメット着用と同じで、守れていなくても直接のペナルティはありません。
それでも、14時間以内におさえるよう努力をする義務はあります。
罰則はなくても、努力義務をおこたったことを理由に損害賠償を請求された事例はあるそうです。
* * *
謎なのは、その努力義務14時間の手前にある「原則 13時間」です。
以下ではこの「原則」の意味を考えてみたいと思います
「原則」と「延長」とは具体的にはどういう事態を言っているのか?
そして、努力義務さえ付いていない「原則」とはいったい何なのか?
たとえ話にしてみます。
作業場に行ったら入り口から15mのところに「この線から出ちゃいけないよ」と1本の線が引いてある。
その手前、入り口から14mのところにも「この線から出るなとは言わないけどあんまり何度も出ないように努力してね」と1本の線が引いてある。
その手前の13mのところにさらにもう1本、ただ「原則」と呼ばれる線が引いてある。
作業場に行ったら入り口から15mのところに「この線から出ちゃいけないよ」と1本の線が引いてある。
その手前、入り口から14mのところにも「この線から出るなとは言わないけどあんまり何度も出ないように努力してね」と1本の線が引いてある。
その手前の13mのところにさらにもう1本、ただ「原則」と呼ばれる線が引いてある。
「最後の線はいったい何の意味があるんだろう」と思いませんか?
悩んだ末に1つ思いついたのは、「原則」は計画段階の話で、実際には現場の事情で計画通りに行かなかったとしても「延長」できる、というとらえ方です。
でも、監査のときに、実際の拘束時間が15時間以内に収まっているか、そして、運行計画上の拘束時間が13時間以内に収まっているか、それぞれを両方ともチェックする、なんていうことはやりません(そんなことはやらないということを、念のため労働基準局にも確認しました)。
この仮説は却下です。
視点を変えてみましょう。
改善基準の条文は、「拘束時間を延長する場合」のような書き方で、「延長」を運送事業者が選択するものとしてあつかっています。
わたしもずっと、事業者にとっての意味、事業者にとっての違いという範囲だけで考えていました。
しかし、いったん事業者目線を離れて「行政の思い」としてとらえ直してみると、その意味が見えてくるように思います。
「原則」と「延長」はそれぞれ
原則 : 労働者保護のたてまえ上、行政が引っ込めるわけにいかない「旗印」
延長 : 行政がしぶしぶ認めた「妥協点」
と言い換えられるのではないでしょうか。
事業者目線に戻って言えば、この改善基準が有効な限り、実効性があるのは「原則」でなく「延長」の方だということです。
「行政の思い」を想像して言葉にしてみましょう。
あくまで「原則」こそが本来あるべき姿である。
しかし、今現在の日本の物流の状況を考えると「原則」どおりにスジを通すことはむずかしい。
だからまことに不本意であるが「延長」という形を認める。
付け加えると、いずれ状況が正常化に向かえばただちに「原則」に戻すからそのつもりで。
「原則」と「延長」という言い回しには、こんな思いが凝縮されていると思うのですが、いかがでしょうか?