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新改善基準の話・第38回 フェリー乗船の特例 その2

前回 挙げたフェリー乗船の特例の4つの要素のうち、今回取り上げるのは

❷ フェリー乗船休息の時間は与えるべき休息期間の時間から引き算する。

です。
フェリー乗船の特例には「おどろくべき内容が含まれています」などと前回書きましたが、それはこの ❷ のことです。
「与えるべき休息期間の時間から引き算する」なんてなぞなぞみたいですが、どういうことなのか見て行きましょう。
「与えるべき休息期間」は「実際に与えた休息期間」と対で考えることができます。
1日の休息期間は、「与えるべき休息期間」と「実際に与えた休息期間」を比較し、後者が前者以上の長さならセーフ、前者より短ければNGになります。
1日に休息期間が複数あってそれをカウントする場合、ふつうはまず「実際に与えた休息期間」を合計し、それと「与えるべき休息期間」を比較します。
ところが、フェリー休息の場合は、ほかの「実際に与えた休息期間」と合計せずに「与えるべき休息期間」から引け、というのです。
具体例を考えてみましょう。
ある1日に通常休息(フェリー休息でない休息という意味です)が2回あったとして、それぞれR1、R2と名付けることにしましょう。
そして、1日の「与えるべき休息期間」の下限値をXとします。
この場合、 R1 + R2 とXの長さを比較して
 R1 + R2  ≧ X ・・・ 式 ⑴
が成り立てば、その日は与えるべき休息期間が満たされたことになりセーフになります。
それに対して、またある1日に通常休息Rとフェリー休息Fがあったとしましょう。
フェリー休息期間は与えるべき休息期間から引き算をするので、こちらの場合ではRとX-Fを比較することになります。
 R ≧ X-F ・・・ 式 ⑵
が成り立てば、必要休息期間が取れているのでセーフです。
つまり、フェリー休息が入っている場合、こんなふうに比較の仕方が違うということだったんですね、めでたしめでたし。
・・・って、ちょっと待ってください。
式 ⑵ はFを左辺に移して
 R+F ≧ X ・・・ 式 ⑶
と変形すれば、結局、式 ⑴と同じ形になります。
これではわざわざ「与えるべき休息期間から引く」ことの意味が無いんじゃないでしょうか?
フェリー乗船休息を与えるべき休息期間から引き算させることによって、通常休息期間と足す場合といったい何が違ってくるんでしょう?
・・・実は、式 ⑴ と式 ⑶ ではXの値が違うんです。
式 ⑴ の場合、「実際に与えた休息期間」は2回あるので2分割休息ということになります。
2分割休息では合計12時間以上の休息が必要なので、Xの値は12時間です。
式 ⑶ の場合、Fは「与えるべき休息期間」から引かれるので、「実際に与えた休息期間」の側には通常休息Rが1回あるだけです。
無分割の継続休息ということになります。
継続休息の場合必要な時間は10時間以上なので、Xの値は10時間です。
ということは、たとえば1日に5時間と6時間の休息期間を1回ずつ取ったとすると、それが両方とも通常休息(R1=5時間、R2=6時間)なら
 5時間+6時間 < X(=12時間) 
でNGになります。
しかしそれが通常休息1回とフェリー休息1回(R=5時間、F=6時間)なら
 5時間+6時間 ≧ X(=10時間) 
でセーフになります。
休息の合計時間が同じであれば、通常休息ばかりよりもフェリー休息が混ざっていた方が有利なカウントになるのです。
また、通常は4分割以上の休息はNGとされていますが、たとえば1日に通常休息3回+フェリー休息1回の計4回の休息の場合は3分割休息あつかいでNGにならず通用しますから、分割回数が減ることはそういう意味でも有利です。
ではなぜこんな ❷ のようなルールをわざわざ作ったのか。
フェリーに乗ってれば車中泊よりゆっくり休める、という考えからでしょうか。
もしかすると、このブログの 第32回 で取り上げた「分割休息A説」と関係しているのかもしれません(「分割休息A説」と「分割休息B説」のどちらが正しいのかはいまのところまだ答えが出ていませんが)。
正直なところ現時点ではまったくの謎です。
その疑問はともかく、そもそもここに書いた以上のような理解のしかたでほんとうに正しいのか、労働局をとおして労働基準局に確認してもらっています。
その結果はこのブログでご報告します。