労働基準局とその出先機関(「労基局・署」と略)についての続き。
テーマは「改善基準や労働基準法についての疑問に、信頼できる答えをもらう方法」です。
3つの切り口で考えてみます。
1.アンチョコ(非公開の内部文書)はあるのか?
労基局・署に問い合わせをして一応の回答をもらったけど、なぜその答えになるかの説明に納得がいかないことがあります。
特に、公開されている文書を読んだだけでは答えが出そうもない問題に、しれっと答えが返ってきたとき。
そんなときは、非公開の内部文書(いわゆるアンチョコ)があって、担当者はそれを見て答えているんじゃないか、という疑問がわいてきます。
別に「自分たちだけカンニングするなんてズルいじゃないか」とか言いたいわけじゃありません。
アンチョコがあってそれに答えが書かれているなら、正しい答えをもらえるのでむしろ安心です。
アンチョコなしでの答えの方が、何の裏付けもない担当者の個人的な意見なんじゃないか、という疑惑が残ります。
この点について労働局の監督官に直接聞いたところ、少なくとも新改善基準にかんしてはそのような文書は存在しない、とのことでした。
なお、現行の改善基準については、非公開内部文書ではありませんが『自動車運転者労務改善基準の解説』という本が出版されていて、労基局・署の人も参考にしているそうです(この本、実は弊社にも1冊ありますが、改善基準の個々の条文を解釈して具体的な答えを出すという用途にはあんまり役に立たないような気がするので、個人的にはおすすめしません)。
とにかく、わたしたちが知ることができない内部文書は、新改善基準については(少なくとも現時点では)存在しないようです。
2.労基局・署の担当者なら誰でもいいのか?
労基局・署で質問するときは、必ず労働基準監督官(以下、「監督官」)に質問するようにしましょう。
これはあるセミナーで教わりました。
電話したり窓口に行ったりしても、必ずしも監督官が相手をしてくれるわけではありません。
アルバイトで雇われた社会保険労務士が質問に答える場合もあるそうです(教えてくれたセミナーの講師自身がそういうアルバイトの経験者でした)。
なぜ監督官でないといけないのか。
専門性・知識量のちがいもあると思いますが、立場のちがいもあるのではないでしょうか。
組織の中での立場が弱いアルバイトの場合、自分の手にあまる質問を受けたときに、「周囲を巻き込んでも責任をもってまちがいなく正しい答えを出す」ことよりも「上司や周囲の手をわずらわせずに自分だけで適当に処理する」ことを選択する人が出やすいのではないか、と思うのです(もちろん個人や組織によってちがいはありますが)。
3. 労働基準監督官なら大丈夫なのか?
監督官に答えをもらうことで正解の確率を上げることはできますが、では監督官なら誰でもいいのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
同じ質問を2人の監督官に(別々に)する機会があったのですが、答えがまったく違っていました。
アンチョコがあるわけではないので、ビミョーな疑問点については見解が分かれても不思議はありません。
では2人のうちどっちの監督官の答えを信頼すればいいのか?
監督官にも役職はあるようですが、会社と同じで、えらい人が言うことが正しいとは限りません。
前回、労働基準法や改善基準について監督・指導をおこなう厚生労働省のラインを下記のように説明しました。
労働基準局 - 都道府県労働局 - 労働基準監督署
この中で正しい解釈を決める権限を持っているのは、本局の労働基準局です。
都道府県労働局や労働基準監督署は、判断に迷うことがあればこのラインをさかのぼって労働基準局におうかがいを立てて答えをもらうそうです。
むずかしい問題は、労働局や労基署の監督官でなく、労働基準局(本局)に判断してもらう必要があるのです。
そう考えると、一番確実なのは労働基準局に直接問い合わせることになります。
伝言ゲームをはぶけるという意味で、一番まちがいない答えをもらえるはずです。
でも、わたしは本局ではなく静岡労働局の監督官にお願いして、静岡労働局経由で本局に問い合わせをしてもらっています。
本局は東京なので、わたしの場合、直接問い合わせるとなると電話になります。
相手がこちらの疑問をどれくらいしっかっり受け止めて答えてくれているのか、相手の顔を自分の目で見て確認できないのが不安なのです。
現時点では、このように面識のある労働局の監督官をとおして労働基準局に問い合わせてもらう方法がベスト、とわたしは思っています。
* * *
労働基準局とその出先機関について書いてきました。
最後に、労働基準局で改善基準の解釈の策定にかかわっている方々に、提言したいことを1つ書いておきます。
それは
新改善基準の具体的な解釈を示す文書をどんどん公開してほしい
ということです。
このブログの第15回で「改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A」という文書をご紹介しました。
労働基準局がこれを公表したことは大いに評価されてよいと思います。
わたしに限っていえば、新改善基準告示や新改善基準通達だけではわからなかったことでこの文書を読んではじめてわかったことや、解釈を改めた点がいくつもありました。
疑問が減るとスッキリします。
もやもやが消えてスッキリすると、新改善基準への信頼も増します。
労働基準局の中の人とわたしたち外の人のあいだには、想像以上に大きなギャップがあるように思います。
そもそも、中の人には、外の人に何がわからないのかがわからない、ということも往々にしてあります。
中の人はQ&Aのような文書をもっと公表し、さらにできれば外の人からの疑問に耳をかたむけることによって、両側からギャップを埋めていく体制を作ってほしいと思うのです。
監督・指導を受ける側の運送会社は、改善基準が求めていることが正確にわかれば、もっと順守しやすくなるはずです。
運送会社の指南をする社会保険労務士やコンサルタントも、自信をもって適切な指導ができるようになります。
デジタコメーカーや弊社のような労務管理サービスを提供する企業も、よりよいものを提供することができます。
実は、外の人だけじゃなく、中の人にとっても同じことでしょう。
正しい解釈が文書で示されるにつれて、同じ質問に対して労基局・署内の担当者によって違う答えが出ることは無くなっていくでしょう。
労基局・署だけじゃありません。
本ブログの第2回で書いたように、改善基準は国交省の告示によって、運輸局による監査・行政処分の基準にも採用されています。
でも、労基局・署内でさえ統一されていない解釈が、省庁の壁をまたいだ運輸局で一致するとも思えません。
あっちとこっちで解釈がちがうとしたら、指導・監督される側の運送会社はどっちの解釈で改善基準を順守すればいいんでしょうか?
じつに困った状況です。
実際にはそれぞれの解釈が明示されていないので、ちがいが目に付くことはありません。
でもそれは解釈のちがいが無いということではありません。
解釈が示されていなければ、指導・監督される側はむしろ無数のちがう解釈を想定しなければなりません。
改善基準本家本元の労働基準局が解釈を示せば、運輸局の担当者も無視できませんから、こういう状況の改善にもつながるのではないでしょうか。