今回取り上げるのは「予期し得ない事象への対応時間」の取扱いです。
災害や事故などへの対応に要した時間を、1日の拘束時間、2日平均運転時間、連続運転時間から除外することができる、というルールです。
今までの改善基準にはない切り口で、新改善基準の目玉の1つといっていいかもしれません。
対象となる「予期し得ない事象」は厚労省の労働基準局長が定める次の4種類とされています。
a 運転中に乗務している車両が予期せず故障したこと。
b 運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航したこと。
c 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖されたこと又は道路が渋滞したこと。
d 異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となったこと。
(改善基準通達 第2の4の⑺)
a ~ d を1つずつ順に見て行きましょう。
a 運転中に乗務している車両が予期せず故障したこと
注意点が2つあります。
このルールを代わりの乗務員さんに適用することはできません。
Aさんの乗務する車両が故障したため別の乗務員Bさんに代わりに運行してもらったとしても、Bさんの拘束時間や運転時間から「対応時間」を引くことはできません。(「改善基準告示(令和6年4月1日適用)に関するQ&A」(以下「Q&A」と略記)「3-15」)
また、「運転中に」とあるとおり、乗務前点検など運転開始前に故障が判明した場合は対象外になります。(「Q&A」「3-16」)
b 運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航したこと
フェリー欠航にともないフェリーの駐車場で待機する時間が「対応時間」になりますが、代わりに陸路等で移動する場合の移動時間も「対応時間」として認められます。
フェリー乗船時間は休息期間として扱われますが、その代わりに陸路等での移動にかかった時間を「対応時間」として拘束時間、運転時間から引いてもよい、ということです。
ただし、これは「陸路での移動時間がフェリー運航時間とおおむね同程度である等、経路変更が合理的であると認められるとき」に限られます。(「Q&A」「3-14」)
ところで、フェリーの代わりに陸路で移動する場合、フェリー乗り場へ行く必要は無いので全然ちがうルートになることもあると思います。
そういう場合にどこからどこまでが「対応時間」として認めてもらえるのかは不明です。
本来のフェリー運航予定時間相当分だけ認められるのか、あるいは、実際に走行した陸路中でフェリー乗降地に一番近い地点同士のあいだの所要時間を取るのか。
細かいことですが、実際の運用に必要なのでこういうことも示してもらいたいですね。
c 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖されたこと又は道路が渋滞したこと
渋滞などのケースですが、「災害や事故の発生」は必須条件です。
イベントや帰省ラッシュも含め、自然渋滞ではダメなんです。
また、「相当程度遠方の事故渋滞の情報に基づき迂回する時間」も「対応時間」として認められません。(「Q&A」「3-14」)
事故渋滞ならすべてOKというわけではなく、その場での乗務員さんの判断力も問われることになります。
d 異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となったこと
「警報発表」が必須条件です。
異常気象でも警報が出ていなければ該当しません。(「Q&A」「3-14」)
逆に、警報が発表されたけど解除される見込みで運行を開始したら実際には解除されず結果的に正常な運行ができなかった、という場合は該当するんだそうです。(「Q&A」「3-14」「3-16」)
わかりにくいですが、警報が出たからといって必ずしも台風や大雪がそこに来るとは限らないので、とりあえず運行を開始することはあるでしょう。
そう考えると妥当な線なのかもしれません。
番外 運転中に同乗者の急病対応を行う場合や犯罪に巻き込まれた場合
「Q&A」「3―14」に「そのほか」としてこの2つが挙げられています。
「予期し得ない事象」は労働基準局長が定める上記 a ~ d の4つの場合だけのはずでしたが、実際にはこういうケースも対象になるんですね(ところで、運転者本人の急病対応の場合はどうなんでしょう?)。
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今回は「予期し得ない事象」の種類について説明しましたが、実はこのどれかに当てはまっているというだけではダメで、加えて「客観的な記録」が必要になります。
次回はこの「客観的な記録」を取り上げます。